感想OUTPUT:人間のしがらみ を読んだ感想(98章特別感想文)

こんにちは、株もっちーです。

金曜日は、本などのINPUTした情報に対するOUTPUTをしていきたいと思います。

要するに読書感想文的な活動ですね。

読んだ本:人間のしがらみ, サマセット・モーム(Samerset Maugham), 河合祥一郎訳

今回は、98章にフォーカスして紹介していきます。

全体を通してのお金に対する考え方は、先週の記事をご覧ください。

kabu-motty.hatenablog.com

98章の位置づけ:個別株投資の怖さが見事に描かれています

全部で122章ある大作でして、98章というとまあ終盤に差し掛かるところと言えます。

98章には株式投資で大損こいた話が書かれています。

これまで、遺産が2000ポンドほどあってそれを使ってきていたのですが、98章の手前くらいで残り財産は400ポンド程度になっています。

2000ポンドは1885年の価値で、約3500万円との注釈がありました。

ということは、1ポンド = 1.75万円くらいですね。

お金が苦しくなり、なんとか増やしたいと思った主人公フィリップは、株式投資の賭けに出ます。

今回は、ここを疑似体験していきたいと思います。

推移とその心境

引用部分は、すべて上のリンク先の書籍から抜粋しています。

株価などはちょっとわかりやすいように、私の方で補足説明を追加しています。

マカリスターがビーク街の居酒屋へやってきて、株式市場は景気がよくなりかけているとうれしそうに告げた。(略)和平は目の前で、(略)株価はすでに上がり始めているという。(略)「チャンスは今だ」マカリスターは告げた。「世間が食いついてくるのを待っていたらだめだ。今やるか、やらないかだ」

儲けたい心理を言葉巧みに煽ってきますね。

マカリスターは内部情報を持っていた。(略)こいつは投機じゃない。投資だ。この上司はこれをチャンスと見て自分の二人の妹のために500株購入したという話をマカリスターはフィリップに教えた。この人は、イングランド銀行ぐらい安全でないと、金を出さない人なんだという。

他の人もやっているという、安心感で畳み掛ける。

「俺は、有り金全部注ぎこむつもりだ」マカリスターは言った。

自分もやるつもりと、更に畳み掛けてきます。

株は、2ポンド1/8から1/4の間を動いていた。(2.125〜2.25)

マカリスターはフリップにあまり欲を出さずに、10シリングの上昇で満足しろと忠告した。自分では300ポンド買うので、フィリップも同様にしてはどうかと勧めた。マカリスターが管理して、そのときが来たと思ったら売る。フィリップはマカリスターを信頼しきっていた。(略)前回儲けさせてもらったのが大きかった。彼は誘いに飛びついた。

欲張らずにちょっとだけなら大丈夫と更にけしかけて、フィリップはついに食いついてしまいました。

新聞の株価欄を新たな興味を持って眺め始めた。あくる日、すべてが少々値上がっており、マカリスターは株を買うのに2.25ポンド払わざるを得なかったと書いてよこした。

よくわかります。自分も買った株の株価をしばらく見てしまいますので。

市場は落ち着いているとあったが、1,2日して落ちてきた。フィリップは自分の株が2ポンドに落ちたのを心配げに見守った。

2,3週間して(略)フィリップの株はさらに半クラウン(0.125ポンド)下落した。

ここで、1.875ポンド、-17%です。

心配だけど、まだなんとかなると思ってしまいますね。ここで損切りしておくべき水準です。

戦争が終わっていないことは明らかだった。売りが殺到した。

マカリスターは(略)悲観していた。「最善の策は損失を抑えることじゃないかな。差額で支払えるものはほとんど支払ってしまったからね」

一転して、売却を進めてきますが、ここではフィリップは売ることができなかったようです。

フィリップは心配で気分が悪くなった。夜も眠れず、朝食はお茶とバター付きパンだけにして、(略)ひどいニュースのときもあれば、何のニュースもないときもあったが、株が動くときは、決まって下落の方向だった。

今売れば、全部で350ポンド近くの損失となり、手許には80ポンドしか残らなくなる。株に手を出すなんてばかなことをしなければよかったと心から悔いたが、耐えるしかなかった。いつか決定的なことが起きて、株が上がるかもしれない。今や儲けは望んでおらず、損失が埋め合わせられればよかった。

塩漬けに移行してしまいました。

病院での課程(略)残すところわずか1年(略)授業料などすべて合算して150ポンドあればなんとかやっていけるのだ。しかし、(略)それがなければ、すべてはふいになる。

生活防衛資金を使ってしまっているので、こういう心配と株価上昇への儚い期待がさらに塩漬けを強固にします。

4月上旬、彼はマカリスターに会いたくてビーク街の居酒屋へ行った。

「会いたかった、ケアリー(フィリップの名字)」マカリスターは言った。「会社ではあの株をこれ以上持っていられないと言っている。市場は最悪で、君に引き取ってもらいたいと言うんだ」

お、株式仲買人っぽいやり口ですね。自分は損を出さずに、顧客に押し付ける作戦。

「引き取っても仕方ないんじゃないかな。全部売ってくれたまえ」

「そういうのは簡単だがね。売れるかどうかわからないよ。市場は停滞していて、買い手がつかないんだ」

「だけど、株価は1.125ポンドって出てるじゃないか」

ここで、-50%。半値ですね。暴落と言っていいでしょう。

「そりゃそうだけど、そんなの何の意味もない。その値段じゃ売れないんだから」

「紙クズ同然ということか?」

「そうは言っちゃいない。もちろん、少しは価値がある。だけど、いいかい、今は誰も買おうとしないんだ」

「じゃあ、いくらでもいいから売ってしまってくれ。」

ついに、株式市場からの脱却を決意します。この株がその後どうなったかは書かれていませんが、個別株投資の危うさがでてきた典型的な事例といえますね。

マカリスターはフィリップをじっと見つめた。かなりの打撃を受けたのだろうかと探る目つきだ。

翌日の夕方、最終便で収支決算書が届いた。通帳を調べると、すっかり支払いをしたあとに7ポンド残ることがわかった。7ポンド!

ちょっと正確な記載はないので、推測を含みます。

300ポンド投資して50%の半値なら、150ポンド残ってもいいようなものですが、残り7ポンドということは、 損益は-293ポンドです。

保有資産で行けば300ポンド(約525万円)が、-512万円となり、残り約12万円です。辛いですね。

イメージをふくらませるために、グラフにしてみました。ひどいですね。

株価は1株あたり、2.25ポンドだったものが、0.0525ポンド(-98%)になったと、想像できます。

なるほど、これを98章に持ってくるあたりに、因縁を感じますね。私だけでしょうが。

面白いブログを発見

小説内に出てくる具体的な金額をまとめているブログ記事を見つけたので、リンクしておきます。

ameblo.jp

中野好夫さんにより「人間の絆」と訳された、別の本をベースに書かれています。私は読んでないですけど、流石に金額は同じでしょうね。

まとめ

小説の主題とは全くそれるのですが、個人投資家らしい読書スタイルにしてみました。

さすがは文豪の文章であり、投資家の心理を言葉巧みに表現しておりまして、自分のことのように思って読んでしまいました。

とくに98章は、このブログネタにすべく、5回くらい読みました。

この章をここまでしっかりと読んだ人は、翻訳者と私くらいしかいないんじゃないでしょうかね。

また、全く関係なさそうな本の中に、投資関係の記載を見つけたら、分析してみたいと思います。

非常に面白い体験でした。

蛇足:名著ということで何度も訳されています

この本は何度も訳されているみたいで、別の訳も見つかりました。まだまだありそうですけど。

原書を読んで、自分で翻訳してみるというのも、高潔な趣味かもしれません。いやー大変そう。

行方 昭夫さんの訳。

金原瑞人さんの訳。